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セキュリティ採用の基礎知識2026.04.14

セキュリティ人材が採れない本当の理由 ── 企業と候補者のギャップ

セキュリティ人材は約48万人、11万人が不足。求人倍率42.6倍。しかし「人がいない」だけでは説明できない。採れない構造的理由と、採れている会社がやっていることを採用コンサルの視点で整理する。

セキュリティ人材を採用しようとしたとき、最初に出てくる言葉はだいたい決まっている。

「そもそも人がいない」。

これは事実だ。ISC2の調査(2023年版)によれば、日本のサイバーセキュリティ人材は約48万人。それに対して約11万人が不足している。 セキュリティ関連の求人倍率は42.6倍(※業界調査データ、2025年12月時点)。IT全体の約4倍の開きがある。

数字だけ見れば、「人がいない」は正しい。

しかし採用の現場を見ていると、「人がいない」だけでは説明できないケースのほうが多い。 人がいないのではなく、企業と候補者の間に見えないギャップがあり、それが採用を止めている。

本記事では、セキュリティ人材専門の採用コンサルタントの視点から、企業が「採れない」構造的な理由と、実際に「採れている」会社がやっていることを整理する。


採れない3つの構造的理由

1. 需給ギャップ ── 母数が少ない事実は受け入れる

まず前提として、セキュリティの即戦力層はIT人材全体の中でもごく一部だ。母数が少ないのは事実であり、ここは受け入れるしかない。

ただし、「人がいないから採れない」で思考停止すると、次の2つの問題に気づけない。

2. 求人の解像度が低い

採用が止まっている企業で最も多いのが、「どのセキュリティ人材を求めているか」が曖昧なまま求人を出しているケースだ。

たとえば「脆弱性診断経験者」と一言で書いても、Web診断、プラットフォーム診断、スマホアプリ診断では求められるスキルがまるで違う。SOCとCSIRTも別の仕事だし、GRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)とAppSec(アプリケーションセキュリティ)では志向する人材像がそもそも異なる。

それにもかかわらず、「セキュリティエンジニア募集。実務経験5年以上」の一行で済ませている求人票は珍しくない。

候補者はこう思う。「何をやるかわからない会社には応募しない」。

解像度が低い求人は、そもそも候補者の目に留まらないか、留まっても応募に至らない。母数が少ない領域で、入口を自ら狭めてしまっている。

3. 社内でのセキュリティ人材の評価が曖昧

もう一つ根深い問題がある。セキュリティ人材を採用した後、社内でどう評価するかが決まっていないケースだ。

「何もなかった」ことが成果であるセキュリティの仕事は、売上のように数値化しにくい。その結果、採用しても社内での位置づけが曖昧になり、候補者の間で「あの会社はセキュリティに理解がない」という評判が広がることがある。

セキュリティ人材のコミュニティは狭い。一度ネガティブな評判が立つと、その企業への応募が減る。市場に出回る人が少ない領域だからこそ、「中に入ってからどう扱われるか」の情報は候補者に伝わりやすい。


企業と候補者の「認識ギャップ」

採用が止まるもう一つの大きな原因が、企業と候補者が見ているものの違いだ。

企業が重視すること

  • 資格(CISSP、情報処理安全確保支援士など)
  • 経験年数(「セキュリティ実務5年以上」)
  • 直近の業務内容(SOC経験、診断経験など)

候補者が重視すること

  • 裁量:自分で判断して動ける環境か
  • 成長環境:技術を深掘りできるか、幅を広げられるか
  • 正当な評価:セキュリティの仕事が社内で理解されているか
  • 働き方:リモート、シフトの有無、オンコール体制

このズレが面接で表面化する。

企業は「この候補者は資格を持っていて、○年の経験がある。条件はクリアしている」と判断する。一方、候補者は「裁量の話がまったく出てこない。面接に出てくる方(特に人事)がセキュリティの仕事を理解していない」と感じて辞退する。

条件は合っているのに、候補者が辞退する。 この現象の背景には、ほぼ必ずこの認識ギャップがある。

候補者は条件だけで会社を選んでいるわけではない。「この会社は私の仕事を理解しようとしているか」を見ている。 その姿勢が見えるだけで、「この会社は信頼できそうだ」と感じる候補者は少なくない。


採れている会社がやっていること

では、実際に採用がうまくいっている会社は何をしているのか。共通しているのは3つだ。

1. 職種を「具体的に」定義している

「セキュリティエンジニア」ではなく、「SOCのTier2アナリスト」「Web脆弱性診断のリードエンジニア」「CSIRT立ち上げを主導できるマネージャー」のように、具体的な役割として定義している。

職種の定義が具体的であれば、スカウト文面の精度が上がり、面接での会話も噛み合う。「何をやるかわかる」求人は、それだけで候補者の反応率が変わる。

人事はすべてを理解する必要はない。自社が「今、最も欲しいセキュリティ職種1つ」を言語化すること。 それだけでも解像度は大きく変わる。

2. 採用の前線に立つ人事が「1割」を理解している

現場のマネージャーやCISOがセキュリティを語れるのは当たり前だ。問題は、採用の前線に立つ人事が、セキュリティの仕事をほとんど理解できていないケースが多いことにある。

スカウトを送るのも、書類選考をするのも、一次面接で候補者と最初に話すのも人事が大半だ。その人事が「SOCとCSIRTの違い」を説明できない状態で候補者と接すれば、候補者は「この会社はわかっていない」と判断して離脱する。

人事がセキュリティエンジニアになる必要はない。実務経験も不要だ。ただし、職種の違いを説明できる最低限の理解 ── 全体の1割程度 ── があるかどうかで、候補者との会話の質はまったく変わる。

候補者は条件だけを見ていない。「この会社は自分たちの仕事を理解しようとしているか」を見ている。 その姿勢が人事から伝わるだけで、「この会社は信頼できそうだ」と感じる候補者は少なくない。

3. 候補者体験を設計している

スカウトの文面、面接の進め方、オファーの出し方。この一連のプロセスを「候補者の体験」として設計している会社は、辞退率が低い。

セキュリティ人材は複数社から同時にオファーを受けることが多い。条件が横並びのとき、最後の決め手になるのは「プロセスの中で感じた信頼感」だ。

たとえば、カジュアル面談の段階で候補者の関心領域をヒアリングし、面接に技術的なディスカッションを組み込む。選考結果のフィードバックを丁寧に行う。こうした候補者体験の積み重ねが、「この会社を選びたい」という判断につながる。


まとめ

セキュリティ人材の採用が難しいのは事実だ。しかし、「人がいない」で止まっている限り、状況は変わらない。

採れない理由を分解していくと、多くの場合、求人の解像度・候補者との認識ギャップ・採用プロセスの設計に改善の余地がある。母数が少ない領域だからこそ、これらの精度が結果に直結する。

「うちはセキュリティのことがわからないから採れない」のではない。「そもそも人がいないから採れない」── これもただの逃げだ。わかろうとする姿勢を見せるだけで、候補者の反応は変わる。1%の人材を採るには、逃げていては採れない。


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著者:高田 祥
セキュリティ人材専門の採用コンサルタント。株式会社セコネ代表。
情報処理安全確保支援士(登録番号 第019946号)。上級個人情報保護士。個人情報保護監査人。CompTIA Security+。
セキュリティベンダー・事業会社のセキュリティ採用を、職種設計からスカウト・面接設計まで一貫して支援。


出典:ISC2「2023 Cybersecurity Workforce Study」、各種業界調査データ

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