先日、HR系のイベントで「退職予兆AI」の話を聞いた。勤怠の乱れや社内システムの利用状況から、辞めそうな社員をAIが検知するという領域だ。技術としては面白いし、発想も分かる。
ただ、人の退職理由を聞き続けてきた立場から、どうしても引っかかる点が1つあった。
本音はそもそも社内データに存在しない。 予兆AIの限界はアルゴリズムの精度ではなく、データの入手経路にある。これが今回の主張だ。
なぜ本音は社内データにないのか
考えてみてほしい。辞める人は会社に本音を言うだろうか。退職面談で「上司と合わなかった」「評価に納得していない」と正面から言う人はほとんどいない。角が立つだけで、本人に得が何もないからだ。だから社内に残る退職理由は「一身上の都合」という当たり障りのない建前になる。
転職側の面接でも同じことが起きる。本音の転職理由を言うと落とされかねないから、候補者は面接用に整えた理由を話す。つまり会社の中のどこを探しても本音が記録されているデータベースは無い。 無いものは、どれだけ優秀なAIでも検知できない。
では本音はどこで出るのか。私は元エージェントで、いまも採用コンサルとキャリア相談の両方をやっている。経験上、本音が出るのは利害の外にいる人間が引き出して、言語化を手伝った時だけだ。評価にも選考にも関係ない相手だから話せることがある。本音とはそういう性質の情報であって、勤怠ログの中には最初から映っていない。
検知できたとして、変えられるか
もう1つ、実務的な問題がある。仮に予兆を検知できたとして、会社はそれを止められるのか。
利害の外で聞く本音の大半は年収・働き方・人間関係のどれかに行き着く。そして、この3つは会社が簡単には変えられない。一人の引き留めのために給与テーブルは動かせないし、人間関係の調整には限界がある。
だから私は変えられない部分は入社前から正直に見せて、それでも起きる退職はある程度「循環」と割り切る方が健全だと考えている。出口を検知して慌てて止める設計より、入口で「この会社の現実と合う人」に入ってもらう設計の方が、結局は定着に効く。
勝負は入口のカジュアル面談にある
その入口の主戦場がカジュアル面談だ。私は以前から、採用はカジュアル面談で9割決まると言い続けている。
選考が始まる前の、お互いがまだ取り繕う理由の薄い段階で、仕事の実態も会社の足りないところも含めてぶっちゃけて話す。そこで人間性と考え方が合うかを見る。ここが噛み合った採用は選考もオファーも速いし、入社後に「話が違う」が起きにくい。逆にカジュアル面談を会社説明会のように流してしまうと、本音を確かめる機会は選考の中にはもう来ない。
面談で何をどう聞くかには設計の型があるがそれは本稿の範囲を超えるので、方向性だけ言っておく。候補者に取り繕わせない場を作れるかは面談する側の準備で決まる。 アイスブレイクの上手さの話ではない。
道具を否定したいのではない。データが素直に残る領域なら予兆AIは機能するだろう。ただ退職と採用の一番大事な変数である「本音」は出口のログではなく入口の対話でしか取れない。そこに人と時間を張れる会社が結局いちばん辞められない会社になると思っている。
カジュアル面談の設計はセコネが採用コンサルティングの中で最も力を入れている領域だ。「面談はやっているが手応えがない」という場合は、一度ご相談いただきたい。
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著者:高田 祥
セキュリティ人材専門の採用コンサルタント。株式会社セコネ代表。
情報処理安全確保支援士(登録番号 第019946号)。上級個人情報保護士。個人情報保護監査人。CompTIA Security+。
セキュリティベンダー・事業会社のセキュリティ採用を、職種設計からスカウト・面接設計まで一貫して支援。採用業務でのAI活用に関する整備支援にも対応。