「採用にAIツールを入れたい。どれがいいか」という相談がこの1年で目に見えて増えた。スクリーニング、スカウト文面、面接メモの要約。候補は山ほどあり、比較表を作り始めると楽しくなってくる。
ただ先に言っておきたい。ツール選びで失敗する会社より、宿題をやらずに入れて後から困る会社の方がずっと多い。 どのAIを契約するかは以前の記事に書いたので、この記事では「入れる前に終わらせる宿題」を3つに絞って書く。どれもツールのパンフレットには載っていない話だ。
宿題1:応募者情報の「入れてよい線」を先に決める
導入検討で最初に出る質問は「このツールは安全ですか」だ。気持ちは分かるが順序が逆だと思っている。先に決めるべきは「自社は何を入れるか」であってツールの安全性はその後の話だ。
応募者の履歴書・職務経歴書は個人情報の塊で、その中には健康や家族の事情のような、扱いに特に注意が要る記述が混ざってくることもある。ツールがどれだけ堅牢でも入れてはいけないものを入れる運用が始まれば意味がない。逆に「氏名や連絡先は外す」「評価に使う職務情報だけ渡す」という線が引けていれば、ツール側の要求水準は現実的なものに下がる。
線の引き方の具体論は過去2本の記事に書いた(文末に置いておく)。ここでは1つだけ。線引きは担当者任せにせず、導入前に文書で決めること。 「常識的に判断して使ってください」で始めた運用は、担当者の数だけ線ができる。
宿題2:「後から説明できる状態」を先に作る
2つ目は同意と記録だ。応募者情報をAIに渡すなら、プライバシーポリシーや応募者への説明がその利用実態と合っているかを、入れる前に確認しておく必要がある。
ここで強調したいのは「漏らさなければ大丈夫」ではないという点だ。2026年7月にはLINEヤフーが個人データの第三者提供にかかる確認記録の約3年半分を誤って削除していたと公表した。漏えいでも不正アクセスでもない。「後から説明できる状態を保つ」という義務が崩れたこと自体が公表事案になる、という実例だ。
採用も同じ構造を持っている。応募者から「私の情報をどう使ったのか」と聞かれた時に、どのデータをいつどのツールに渡したかを答えられる状態か。AIツールを入れると処理の量と速度が上がる分、この記録が置き去りになりやすい。改正個人情報保護法が2026年7月に成立し、違反で得た利益に課徴金が課される制度も入った。施行は公布から2年以内で、その時に慌てて記録を遡るのはほぼ不可能だ。
宿題3:出口を設計する
3つ目は一番忘れられやすい。やめる時と、時間が経った時の話だ。
ツールの契約を解約したら、預けた応募者データはどうなるのか。エクスポートできるのか、確実に消えるのか、誰が確認するのか。導入の稟議書に解約時の手順まで書いてある会社を、私はほとんど見たことがない。
時間の経過も同じだ。2026年7月には中部電力グループの不動産会社が、委託先のサーバがランサムウェアの被害を受け、2018年からの約6年分・約4,000件の利用者情報が漏えいした可能性を公表した。注目すべきは6年分という期間だ。データは消す設計をしない限り、預け先に溜まり続ける。 採用で言えば、不採用者のデータを何年持つのか、内定承諾後に預かる口座情報のような重いデータをどこまで残すのか。AIツールに渡すデータにも同じ問いがそのまま立つ。
宿題が終わっていれば、ツール選びは軽くなる
3つの宿題に共通するのは、どれもツールを入れてからでは直しにくいことだ。線引きのない運用は既成事実になり、記録のない処理は遡れず、出口のない契約は解約時に発覚する。
逆に宿題が終わっている会社のツール選定は驚くほど速い。「入れてよい情報はこれ。説明はこう整備済み。解約時はこの手順」と決まっていれば、あとは業務に合うかどうかだけで選べるからだ。比較表を眺める時間を、この3つに振り替えることをおすすめしたい。
セコネは採用業務のAI活用を、この宿題の整備から運用設計まで含めて支援している。ツール選定の手前で一度ご相談いただきたい。
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ご留意事項
本記事の法的整理は当社の理解に基づく一般的な解説です。個別事案の法的判断にあたっては貴社顧問弁護士等の専門家による確認を推奨します。
著者:高田 祥
セキュリティ人材専門の採用コンサルタント。株式会社セコネ代表。
情報処理安全確保支援士(登録番号 第019946号)。上級個人情報保護士。個人情報保護監査人。CompTIA Security+。
セキュリティベンダー・事業会社のセキュリティ採用を、職種設計からスカウト・面接設計まで一貫して支援。採用業務でのAI活用に関する整備支援にも対応。
出典:LINEヤフー公式発表(2026年7月24日)/中電不動産公式発表(2026年7月28日)