「リファレンスチェック、1時間程度で終わるものです」
『そう言って導入を勧めてくる会社があれば、断ってください。』
私は転職相談を受けた時はっきりこう言っている。
採用業界で誰も大きな声では言わないが、私はクライアントには絶対言うことにしていることがある。批判はあるだろうが、これだけは譲れない。
リファレンスチェックは辞めた方が良い
先に結論を言うと、この記事のメッセージはそれだけだ。
1時間で書けるはずがない、質問項目の重さ
リファレンスチェックで実際に聞かれる質問項目を並べてみる。
- 性格/強み/弱み/改善ポイント
- 過去のトラブル対応事例
- チームへの影響度
- 推薦する理由/推薦できない理由
- 上司・同僚・部下、どの目線で何年見たか
- 人物像を裏付ける具体エピソード10項目以上
これらを、正直に、人生がかかっている他人について書く。
1時間で終わるはずがない。土日が潰れる。
ちなみに私も何度か依頼をされて実際にやったことがある。
現在採用のプロとして企業を支援しており、元エンジニア、元転職エージェントという立場なので、以前一緒に仕事をした方やエンジニア時代の同僚、後輩、先輩...
「これ誰にどう依頼したら良いか」「依頼するならどうしたら良いか」と連日候補者から相談を受けるし、企業からも「この前入社した方が休職歴隠していたんですよね、もうリファレンスチェック導入しようかと思うんですが」と導入相談も受ける立場だ。
「うちは選択式の簡単なフォームだから10分で終わる」と言ってくるリファレンスチェックサービス作成会社もある。
ただ、選択式で出てきた回答に意味のある情報量があるか、採用責任者として一度自問してほしい。「人柄スコア◯点」「リーダーシップ◯点」と並んだスコアを、どこまで採用判断の材料にしているか。
選択式で「終わる」なら、それは候補者の中身を見ているのではない。手続きを通しているだけだ。
食事を奢るのは当たり前。25万円のサックスをお礼として貰った
ある時、私のYouTubeで「リファレンスチェックを書いてもらった人に、お礼として25万円のサックスを贈った」というコメントがついた。
ここまでの「額」をもらうのは凄いが、正直、答えたことのある方は分かると思う、むしろ安いぐらいだ。
人生がかかった他人について、休日を使って、正直に記述・選択質問に10項目以上書く。書類選考や面接結果を左右する重さがある。サックス1本贈ったって、本来は割に合わない労働だ。
リファレンスチェックを依頼された側は、たいてい現職の上司や元同僚で、しかも候補者にとって「断りにくい関係」にいる。「いいよ、書いとくよ」と引き受けてもらった瞬間に、相手の貴重な休日が確実に削られる。
候補者は、その負債を一人で背負う。何なら「候補者の同僚や上司」に「合否の責任」の一端を「無料で」担わせる。採用企業側が判断すべき点を「第三者に無料で丸投げ」していると言える。
そして採用側は、その負債の上で「定量的な評価データ」を手に入れた気になっている。
構造として、誰の善意で回っているかを一度棚卸ししたほうがいい。
「面接の回数を増やせば済む」 ── コンサルでクライアントに伝えていること
「でも、面接だけだと候補者の本当の姿は見えないんです」
リファレンスチェック導入を検討している採用責任者から、よく言われる言葉だ。
これに対するセコネの返答は、決まっている。
「リファレンスチェックを依頼するコストと時間を、面接の質向上に使えませんか?必ず見抜けますしその方が双方幸せです」
リファレンスチェック1件を実施するには、
- 候補者に依頼者を聞き出す調整
- 依頼者へのお願いと書式送付
- 回答の催促
- 回答の整理・社内共有
- 場合によっては候補者へのフィードバック
最低でも採用担当の延べ3〜5時間(質問対応や苦情・辞退対応ならびに引き止め)、候補者と依頼者の負荷も含めれば10時間規模の労働になる。
その時間で、面接を 1回追加 できる。
面接を追加したら逃げられるんじゃ...という声が出るだろう。
いやいや、リファレンスチェックをやる方が100倍逃げられる
カジュアル面談、現場メンバーとのランチ面談、リファレンス代わりの「過去の困難プロジェクト深掘り面接」── 何でも良い。候補者を直接見る時間が1時間、最高でも3時間増えれば、リファレンスチェックで見たかったものは、ほぼ全部見える。
しかも面接は、双方向だ。候補者も「この会社が私を本気で見にきている」と感じる。リファレンスチェックは一方通行で、候補者からは「自分の評価が、知人の都合と気分で書かれている」と見える。
採用後のエンゲージメント差は、面接で深く話した会社のほうが圧倒的に高い。
候補者の「同意」は、どこまで自由意思か
リファレンスチェックは、候補者本人の同意がなければ実施できない。知人という第三者から本人の情報を集める以上、個人情報保護法上、本人の同意取得が必須だ。利用目的をプライバシーポリシーに明示し、本人の同意を取る──この手続きのどれかを飛ばしている企業が、実は驚くほど多い。
だが、もっと根っこの問題がある。その「同意」は、どこまで本人の自由意思なのか。
そもそも、リファレンスチェックが何かを知らない候補者は多い。求人にしれっと書いてあっても、「なにそれ?まあ条件は合うし受けてみよう」で流れていく。スマホ契約の「※」で小さく書かれた注意書きを、全部読んで覚えている人がどれだけいるか、というのと同じだ。
しかも、数千人を支援してきた立場ではっきり言うが、応募した後に求人を読み返す候補者は稀だ。応募前に一度読んで決め、決めたらもう見ない──体感で9割を超える。
だから候補者は、最終面接の前後で初めてリファレンスチェックの存在を知らされ、面食らう。「ここで同意しなければ、これまでが無駄になる」。そんな状況で差し出す同意に、どれだけの自由意思があるだろう。
企業はこう言うだろう。「見落としたのは候補者の責任だ。最初から書いてあるし、同意したから受けているんだろう?」──実際、そう言われたことは10回や20回ではきかない。
だが、考えてみてほしい。これだけ重く、工数もかかるチェックを、小さく書いて同意だけ取り付け、半ば強制してくる会社に、候補者は行きたいだろうか。同意しなければ選考に進めない以上、その同意は実質的な強制に近い。
そんな同意を迫る会社に、私なら行きたくない。あなたなら、行きたいか。
知人のサービス残業に丸投げしている構造を、採用責任者として疑い直す
ここまで読んで、「いや、うちもやめたいが、社内事情で動かせない」と感じる方は多いと思う。
リファレンスチェックが廃止されない構造は、だいたい3つある。
-
「客観的な第三者評価がある」という安心感
→ 採用ミスがあった時に「リファレンスでも問題なかった」と言える保険。実態は知人の善意作文だが、見た目は「第三者の証言」になる -
経営層・取締役会への説明用ツール
→ 「リファレンスチェック結果を踏まえて採用しました」と言えば、定量的に説明できる。中身は問われない -
採用責任者の責任分散
→ 万一の採用失敗時、「リファレンスでは推薦されていた」「依頼先の見立てを信じた」と外部に責任を分散できる
3つとも、採用責任者の保身としては機能する。ただ、採用そのものが前に進む構造にはなっていない。
そして、その保身のコストは、候補者の知人の休日"無料出勤"で支払われている。
候補者の人生に関わる判定を、面接で見抜けなかった分を、知人の休日サービス残業で埋め合わせている。
──この構造を、採用責任者として一度自問してほしい。そんなサービス残業させる会社に、人のことを考えられない会社に、あなたは入りたいか?
採用したいなら、立ち止まる時間を取る
セコネが採用コンサルでクライアントに伝えているのは、こういう話だ。
「採れない」というならそもそものやり方を疑え。常識を疑え。
リファレンスチェックの時間とコストを、面接の回数増・カジュアル面談・現場ランチに振り替えてみる。それだけで、見える候補者の中身は段違いになる。候補者からの信頼も得られるし、「余計な被害者」を生まなくて済む。
「リファレンスチェックやっているけど他社に負けたな」── 当然だ。
著者:高田 祥
セキュリティ人材専門の採用コンサルタント。株式会社セコネ代表。
情報処理安全確保支援士(登録番号 第019946号)。上級個人情報保護士。個人情報保護監査人。CompTIA Security+。
セキュリティベンダー・事業会社の採用を、職種設計からスカウト・面接設計まで一貫して支援。