7月末に「採用でAIを安全に使う」というオンラインセミナーをやった。その質疑で一番反応が大きかった質問がこれだ。
「で、結局どのAIを契約すればいいんですか」
セミナーに限らない。キャリア面談でも経営者の集まりでもこの1ヶ月で同じ質問を何度も受けた。比較記事を読み動画を見て、それでも決められずに止まっている。検討したまま契約に至っていない人が現場の体感では圧倒的多数派だ。
先に結論を言う。
ChatGPT Plus か Claude Pro のどちらか1つを契約してまず使い切る。 私の答えはこれだけだ(私見であり2026年8月時点の話であることは先に断っておく)。
拍子抜けしたと思う。ただこの「どれか」で止まっている時間こそが一番高くつくというのがこの記事の本題だ。そしてもうひとつ、製品名よりずっと大事な分かれ目の話を後半でする。
なぜ「どれが最強か」で決めてはいけないのか
理由は単純で順位がすぐ入れ替わるからだ。
この1年だけでも各社のモデルは数ヶ月おきに更新されそのたびに「今はこっちが強い」が入れ替わってきた。今日時点の比較記事を根拠に3週間悩むと、結論が出る頃には前提が変わっている。比較の賞味期限が検討のスピードより短い。
だから「どれが最強か」を当てにいく選び方は構造的に報われない。迷って止まらないことのほうが正解を引くことより大事だ。
そのうえで選び方の目安だけ書いておく。
・まず ChatGPT Plus か Claude Pro のどちらか1つで十分。 使い切って足りないと感じたらもう1つを足す
・会社のデータも個人の生活も Google に寄っているなら Gemini から入るのも自然だ
・調べ物の比重が大きいなら検索特化の Perplexity を別枠で考える
・Microsoft Copilot は現時点ではチャットの入り口としては手堅いが、この後に書く「積み上げ」の本命にするのはまだ早いというのが私の感触だ
どれを選んでも月数千円の世界だ。採用媒体の掲載費やエージェントフィーと比べれば誤差の範囲でしかない。選び間違いのコストは小さく、迷い続けるコストだけが大きい。
本当の分かれ目は「どの製品か」ではなく「どの段階まで使うか」
セミナーで製品名の次に話したのがこの整理だ。AIの「できること」はざっくり3段階に分かれる。
段階1:チャット型。 質問に答えさせ文章を作らせ要約させる。1回ずつ人が指示する使い方で自動化はない。いま「AIを使っている」という会社の大半はここだ。
段階2:Office操作型。 Word・Excel・PowerPoint の中でAIが作成・編集・集計までやる。書類仕事が一段速くなる。
段階3:フォルダ自律型。 いわゆるエージェント型で、Claude Code や Codex のようにフォルダごとAIに見せて複数のファイルにまたがる複数の手順を任せる使い方だ。応募書類を置けば管理表が更新され足すたびに自動で積み上がっていく。
採用業務で「楽になった」で終わらせず積み上げと自動化まで行きたいなら目指す場所は段階3だ。 逆に言えば段階1で使う限り、どの製品を選んでも体験の差は思っているほど大きくない。「どれを契約するか」を悩む時間を「どの段階まで使うか」を決める時間に振り替えたほうが確実に前へ進む。
「チャットのAIでもできますか?」の答え
セミナー後によく続く質問がこれだ。答えは仕事の形で分かれる。
1つの基準で大量のデータを一括処理する仕事──たとえば応募者の一覧を1つの表にまとめて同じ基準で一括採点・仕分けするような仕事はチャット型でもできる。表を貼り付けて指示すればいい。
複数の基準で対象ごとに別々の処理を自律的に振り分ける仕事──応募者ごとにフォルダを読み管理表を更新し、面接用のメモと候補者への連絡文を1人ずつ別ファイルで作り分けるような仕事はエージェント型の領域だ。チャット画面への貼り付けでは往復の手間が本体になってしまう。
つまり「チャットAIでもできる?」の答えは一括処理ならYes、積み上げ・自動化はエージェント型の領域となる。自社がやりたいのはどちらの形なのかを先に決めると、契約すべきものも社内で目指す段階も勝手に決まっていく。
どの製品を選んでも先に決めることが1つだけある
採用業務である以上AIに渡すのは応募者の個人情報だ。製品を選ぶ前でも後でも構わない。ただ「応募者情報を入れる前に個人情報の扱いをどうするか」だけは先に決めておく必要がある。学習に使われない設定で使うのか。入れる前に個人情報を外すのか。そもそもどの業務では入れないのか。
ここを飛ばして段階3まで走ると、便利さと引き換えに事故の芯を抱え込む。この論点は別の記事で詳しく書いているのでそちらに譲る(文末に置いておく)。
迷っている1ヶ月が一番高い
まとめる。ChatGPT Plus か Claude Pro を1つ契約してまず使い切る。 足りなくなったらもう1つ。そして製品名よりも「どの段階まで使うか」を決める。一括処理で足りるのか、積み上げと自動化まで行くのか。
比較したまま止まっている1ヶ月は何も失っていないように見えて、業務が1ミリも変わらなかった1ヶ月だ。採用は相手のある仕事で候補者は待ってくれない。まず1つ、今月から使い始めることをおすすめする。
段階3(フォルダ自律型)まで行きたい、ただし応募者情報の扱いが不安──という場合の環境づくりと運用設計はセコネが支援している領域だ。自社がいまどの段階でもそこからの道のりを一緒に設計する。
※関連記事:「採用業務でAIに応募者情報を入れている人事の3割が知らない、5つの落とし穴」/「採用業務でChatGPTに応募者情報を入れている会社へ」/「Claude for Microsoft 365 を採用業務で試した話」
著者:高田 祥
セキュリティ人材専門の採用コンサルタント。株式会社セコネ代表。
情報処理安全確保支援士(登録番号 第019946号)。上級個人情報保護士。個人情報保護監査人。CompTIA Security+。
セキュリティベンダー・事業会社のセキュリティ採用を、職種設計からスカウト・面接設計まで一貫して支援。採用業務でのAI活用に関する整備支援にも対応。