求人票でよく見かける一文がある。
「セキュリティ実務経験5年以上」。
採用コンサルとして、これまで何万枚という求人票を見てきた。クライアントの求人票をレビューするとき、私が必ず伝えていることがある。
求人票の「経験○年以上」は、候補者のできることを何も語らない。
先に結論を言うと、この記事のメッセージはそれだけだ。
実際コンサルティングに入って求人票を見たとき、年数表記が残ったまま「直す必要なし」と判断したことは、これまで一度もない。ここだけは断言できる。
同じ「3年」でも、中身はまるで別物だ
「セキュリティ実務経験」とひとことで言っても、中身は分かれる。ルールや体制を作る仕事なのか、手を動かす技術の仕事なのか。技術の中でもログやアラートを見て異常を検知する監視(SOC)なのか、事故対応の司令塔(CSIRT)なのか、攻撃者の視点でシステムの穴を探す脆弱性診断なのか。求められるスキルも志向も、まるで別の仕事だ。
だから「実務経験5年以上」と書かれても、候補者のできることは特定できない。
もっと言えば、同じ監視の3年でも差がある。一次対応のアラート確認だけを3年やった人と、詳細な分析まで踏み込んで3年やった人では、できることに天と地ほどの開きがある。
逆のケースもある。「5年必須」と書かれていたポジションに、経験1年の候補者が受かった例を見てきた。1年でも密度の濃い経験をしていたからだ。5年の経験があっても中身が薄い人はいる。
年数は物差しのように見えて、目盛りがついていない。
これはセキュリティに限った話ではない。開発でもインフラでもデータ分析でも、「何をどのレベルでやった3年か」が抜け落ちた年数表記は、同じように機能していない。
候補者は、求人票から「会社の解像度」を読んでいる
年数表記のもうひとつの問題は、母集団が減ることではない。候補者に「この会社は業務の中身を分かっていない」と読まれることだ。
経験の中身が具体的に書かれた求人票を見た候補者は、「この会社は仕事を理解している」「入ってからも話が通じそうだ」と感じる。これは年収や福利厚生では買えない信頼だ。
逆に年数しか書かれていない求人票からは、「現場と人事の間で、業務の言語化がされていない会社」という姿が透けて見える。候補者は求人票を通して、業務内容だけでなく、その会社の組織の解像度まで読んでいる。
そして、いまの候補者は曖昧な求人票を見ても、すぐには判断しない。カジュアル面談で中身を確かめてから、応募するかを決める。つまり求人票で語れていない分は、面談の場で試されている。求人票の曖昧さは、消えてなくなるのではなく、選考のどこかで必ず表面化する。
「年数がないと、書類選考で判断できない」という反論
それでも「年数の条件がないと、書類選考の線引きができない」という声はあるはずだ。
その感覚は理解できる。ただ順序が逆だと思っている。年数で線を引きたくなるのは、「何ができる人を通すか」の基準が言葉になっていないからだ。基準が言葉になっていれば、書類は経歴の中身で読める。なっていないから、誰でも判定できる数字に頼ることになる。
年数の条件は、判断の道具ではなく、判断を先送りするための道具になっている。
それでも年数で書き続ける、3つの構造
ここまで読んで、「分かってはいるが、うちも年数で書いている」と感じる方は多いと思う。
年数表記がなくならない構造は、だいたい3つある。
-
書くのが楽
→ 「何ができる人が欲しいか」を言葉にするには、業務を分解する手間がかかる。年数なら1行で書ける。具体的に書く手間の省略だ -
人事と現場の断絶
→ 現場は「分かって当たり前でしょ」と説明を省き、人事は業務の解像度が足りないまま書くしかない。書けるものがなくて、年数に逃げざるを得ない -
「機械的に判定できる基準」の都合
→ 書類選考を回す側にとって、年数は誰でも判定できる便利な数字だ。判定する側の都合であって、候補者のできることとは関係がない
3つとも社内の事情としては理解できる。ただどれも会社側の都合だ。候補者の「できること」を見る仕組みにはなっていない。
採用したいなら、立ち止まる時間を取る
セコネが採用コンサルでクライアントに伝えているのは、こういう話だ。
「採れない」というならそもそものやり方を疑え。常識を疑え。
年数の一文を消すだけでは求人票は直らない。「その3年で本当に見たかったものは何か」を現場に聞いて言葉にする。出発点はそこにある。
御社の求人票を1枚開いて「年以上」で検索してみてほしい。見つかったら、その年数の中身を採用責任者として言えるだろうか。
言えないなら、そこが求人票の直しどきだ。
※関連記事:「自社のエース、適性検査で受かりますか?」/「リファレンスチェック、1時間で書けると思っていますか?」/「スカウトを、ラブレターのつもりで書いていますか?」
著者:高田 祥
セキュリティ人材専門の採用コンサルタント。株式会社セコネ代表。
情報処理安全確保支援士(登録番号 第019946号)。上級個人情報保護士。個人情報保護監査人。CompTIA Security+。
セキュリティベンダー・事業会社のセキュリティ採用を、職種設計からスカウト・面接設計まで一貫して支援。採用業務でのAI活用に関する整備支援にも対応。